読書と競馬

こっちだよー。

2016 近況2

 もったいぶったが実はそんなに大した事ではないかも。友人に何もかも任せてしまって、引き受けてくれた。それでその友人の宿探しがちょっと遅れてしまったらしい。めぼしいホテル旅館で安価な所はもう入れない。最後に残ったのがこの温泉街の古い旅館だったという事だ。腰を落ち着かせてわかってくるのだが、どうも安価で最後まで売れ残っているわけだ、あまりに気味悪い旅館だった。

 

 昭和30年代の雰囲気を残している古風な、というのがこの温泉宿の宣伝文句らしいが怖い意味で確かに昭和30年代だった。我々は4階、トイレは各部屋には一切なく、催したら地下1階まで降りなければならぬ。だがトイレに関してはそこまで不便ではなかった。部屋数の割に宿泊しているのは我々とおっさん一人だけだったらしい。

 とにかく内装や飾りが、あまりに古めかしく、異様な雰囲気を発していた。

 そんでもって、この旅館、自動販売機が一つもない。どんなボロ宿だって自販機はあるだろう、それがなかったのだ。そうと知っていれば途中のコンビニで飲み物を買い込んだだろうが、自販機のない宿は生まれて初めてで、この世に存在する事を知らなかった。

 

 ここから私の発作が出てきたようだ。私の服用している薬はバカかというくらい喉が乾く。すぐに干上がってしまって喉がかさかさになってひっついてしまいそうになる。だから例え割高でも(コーラ350ml等が150円で売っていようとも)、じゃんじゃん買うつもりでいたのが、ここで打ち消された。飲み物がないわけではない、備え付けの冷蔵庫の瓶のジュースなどはあった。もちろん値が張ると知っているから飲みたくなかったが、私の飢えがまさって、しようがなくコーラと烏龍茶を飲んだ。それでも発作、パニックは止まらない。

 飲めばトイレに行きたくなる。深夜のこの旅館。証明は薄暗く、使っているのが蛍光灯なので青白い光が、特に階段で古い陰気な病院を思い起こさせた。

 こんな所じゃしようがない、さっさと寝てしまおうと眠剤を飲んで寝ようとした。しかし催す方がまさってしまう。多分、この睡眠薬を飲んでいながら、地下1階までエレベーター無しで何回か往復したのがいけなかったのだと思う。

 

 2回目辺りから、ちらりちらりと何かが視界に入る。後ろのほうで、人の気配が微弱だが感じられる。3回目のトイレ、はっきり見た。白いワンピースを来て髪が腰まである若い女が、何とか顔を識別できるレベルの距離でそこにいた。廊下を歩く。ガラスのケースの反射にも白いワンピースの女は映っている。

 この、眠剤でラリっていて、かつ旅館に怖さを感じているのに、この女に恐怖はそこまで抱かなかった。立ち止まって、首だけ後ろを向かせ、観察し始めたのだ。顔は悪くない、美人の方だと思った。だが、知らない顔だ。

 

 補足すると、幻覚の中の幻聴というのは自分の声が外部化したものだ。だからこの理屈を得心できるまで飲み込めたら怖くなくなり遠のいていく。じゃあ、幻視は何なのだろうか、という所からこの女の、私の劣等感、苦い思い出、等々探ってみたがさっぱり心当たりがない。

 

 私は廊下を進む。少しして振り返るとまだ女がいる。無表情だ。距離もさっきと同じだ。そのまま私は部屋に入って鍵をしめた。朝もそろそろという4時半頃、もう一度小用を足しにいった折り、やはり女はついてきた。ここで私は、眠剤の効果が薄れていたせいか、幻覚の中の幻視だな、とわかってしまった。

 ここまでの文脈上、幽霊を疑ってよいのだが、両足がちゃんとあったんでね。

 明晰夢というのがあるが、これは夢だとわかって見ている夢だが、明晰幻覚ってあるんだろうか?

 判断に迷ったのが、病気の陽性症状としての幻視なのか、かなり強い眠剤をもらっているが、その薬が見せた幻視なのか、これはちょっとわからない。

 

 さて、この旅行は土日、返ってきた翌日の月曜まで不安定な感覚が残った。土曜の夜に見た女も含め、神経がナーバスになっていたと思われる。男だが、要はヒステリーを起こしたのだ、一日の疲れと自販機なしという状況が招いた。

 今はすっかり、その気はない、どっかに行ってしまった。陽性症状的な症状は何もない。だからやっぱり一時的にヒステリー、パニックだっただけだと思うのだが、私としては軽いショック。

 幻聴があって、医者に行き、統合失調症である旨、宣告された。幻聴というのはよくある。大した事じゃない。

 だけど幻視だと話が変わってくるのだ。私は見てしまったし、認めてしまった。よほど、幽霊やお化けの類だった、とした方がまだ穏便だ。

 これは医者に言わねばならぬがあくまで一過性だったはずだ、と強調しないといけない。閉鎖ではなく開放だろうが、精神科病棟に入れられてしまうかもしれん。

 

 いやあ、福島競馬場は楽しかったし、とても良い競馬場だと思ったんだけどね。変な部分で印象強い旅行になった。