2018 予想 第20回小倉サマージャンプ(J・GIII) 7/28(土)第8レース

 夏の小倉競馬開催における最初の重賞、小倉サマージャンプを予想する。小倉の障害コースについては、特筆すべき点はあまりない。先行馬が有利だが、それはどこの障害コースでも同じだ。といって、後方勢が全部ダメかというとそうではなくて、これは平地を含む小回りの競馬場全般に言えることだが、終盤に位置を押し上げて、自分から動ける馬なら3着以内はじゅうぶんにある。
 アップトゥデイトがどういう競馬をするか、といったレースで、実際、抜けた存在であるし、オッズが低かろうがこの馬に逆らうのは無謀だろう。けれども新興勢力が粒ぞろいなので、小波乱くらいはあるかもしれない。

 

◎5アップトゥデイト
 このメンツならば楽勝だ、と言いたいところだが、この馬、意外と勝ちを取りこぼす。相手がオジュウチョウサンだったからでしょう、というとそれだけでもない。たとえば昨夏の小倉サマージャンプではソロルにハナ差及ばず2着だった。昨春の中山グランドジャンプでは、まあオジュウチョウサンに先着できなかったのはしようがないとして、2着サンレイデュークに8馬身離された3着だった。
 つまり、軸馬としては最適だが、1着固定で買うには若干勇気がいる馬だということだ。休み明け、別定とはいえ出走馬トップの斤量62kg、鞍上の変更など、不安要素はある。
 2015年の小倉サマージャンプ勝ち馬なので、小倉の障害コースは得意にしているくらいだと思うが、勝ちきれなかったことを想定した馬券の組み合わせを考えたい。
 
◯10マイネルフィエス
 本レース出走馬のうち、障害重賞勝ち馬はアップトゥデイトとこの馬(17年京都ジャンプS1着)のみである。おまけに小倉サマージャンプは今年で3年連続出走で、過去2回はどちらとも3着に食い込んでいる。前走は東京ジャンプSを2着。順調さがうかがえる。道中控える競馬をするので善戦マンの印象が強いのだが、実績No.2であることを評価して対抗。

 


△2ヨカグラ
 対抗にしようか迷った馬。前走の障害OP(阪神)の勝ちっぷりがすごい、5馬身つけた圧勝。あとはレースに集中できるかどうかで、勝ってもおかしくないと思っている。

△3ダンツキャンサー
 障害に転向後は複勝率100%。平地では1600万下勝ち、16年の安土城S2着、クイーンS(GIII)3着があった。牝馬なので58kgで走れることもプラス材料。障害OPも勝っていることだし、平地の成績も加味しておさえ。

△6アグリッパーバイオ
 障害レース初出走の前走、障害未勝利戦が強い勝ち方。障害レースの適性はかなりあると思わされた。おさえ。 

△8マイネルプロンプト
 障害重賞はこれが初出走。近走、やや不振も障害OPは2勝で侮れないが、アタマはないかなあ。勝ちを捨てた2,3着拾いを警戒。

△11タマモワカサマ
 障害に転向後は、(2-1-0-1/4)で着外は一度きり。五ヶ月半の休み明けは少々気になるものの、堅実さに期待してこれもおさえ。

 

買い目 3連単軸2頭流し、相手5頭のマルチ、30点。
5,10→2,3,6,8,11
グッドラック!!
 

2018 『爪と目』藤野可織(新潮文庫) 感想

 
 
著者 : 藤野可織
新潮社
発売日 : 2015-12-23
 2013年度上半期芥川賞受賞作。
 ホラー小説であると思うし、またミステリー小説でもあると思う。終始、醸し出される不穏で奇妙な雰囲気は何なのか。本作の謎に迫るには人称と視点、おかしな語りを見ていくことになるはずだ。直截に言ってしまえば、これは語りのホラーであり、ミステリーである。
 
 基本的なことを確認すると、まず語り手は三歳児である〈わたし〉だ。父は〈あなた〉と不倫関係にあった。そして母がある時、ベランダで死亡した。これを機に後妻として〈あなた〉が滑り込むようにやって来る。小説は〈わたし〉が〈あなた〉に語りかけるような調子で進行していく。二人称小説だとも言われる所以だが、そう定義したところで本作の全てがわかるわけではないし、本当にこれが二人称小説かどうか怪しいものだ。
 〈わたし〉が作中に実在する人物として最初から最後まで登場している。普通に考えれば、これは一人称小説だ。読み手としては〈わたし〉が語ることを読んで(聞いて)いくしかない。しかしながら、この〈わたし〉が曲者で、また怖ろしく、また奇妙な語り手であることがわかってくる。おかしな点は三つ挙げられる。
 
 ・一つ目に、三歳児とは思えない大人びた口調と、観察力と判断力を持っていること。
 ・二つ目に、一人称でありながら、〈わたし〉が知り得るはずのない〈あなた〉の心理や、〈わたし〉がいないはずの空間や、過去まで語ってしまうこと。父のこともそうやって語ってしまうこと。
 ・三つ目に、〈わたし〉すら外側から語ってしまうような文章がいくつか出てくること。引用すると「寝室では、わたしが両親のダブルベッドの真ん中で、掛け布団の上にうつぶせになって眠っていた。」「わたしは、リビングに踏み込んだことに気付かないようだった。」等々。これは一人称の語りとしては、少々おかしい書き方だ。
 
 一つ目は、成長した〈わたし〉が過去を回想しているとすれば説明できるが、二つ目、三つ目はそうはいかない。
 二つ目のこと、〈あなた〉の行動だけでなく心理をも語り、また〈あなた〉だけでなく父のものまで語っていることからして、これは三人称多元視点、いわゆる神の視点のようになっている。最近は意図的に小説の常識を崩して、一人称と三人称の間を自在に移動し、視点を動かす小説が出現しているから、その手のものかと言えばちょっと毛色が違うのではないか。あくまでも形としては一人称体のままで、変化はしないからだ。〈わたし〉は〈あなた〉や父の内面に潜り込めるし、〈わたし〉のいない空間や過去に移動できる神のような、人間を超越した、あるいは人間にあらざる何かとしか言いようがない。
 三つ目は、三歳児の娘である陽奈としての〈わたし〉を、陽奈ではない〈わたし〉が語っているという現象が示されている。〈わたし〉を〈わたし〉が外側から語る、客観的に書くとは何が起こっているのか。 
 この語り手〈わたし〉はいったい何者なのか。語りのホラーであり、ミステリーであると言ったのはこういうことだ。
 
 何者であるかを推理する前に、『爪と目』という題名について。〈あなた〉という後妻はひどく視力が悪い。おまけに見たいものだけ見て、見たくないものは見ない。利己的な性格の象徴として目の悪さが使われている。
 〈あなた〉は〈わたし〉をきちんと見ようとしない。その憎々しさからか、〈わたし〉は爪を噛む癖をやめられない。一時的で投げやりな処置としてスナック菓子を与え続けて爪を噛む暇を奪うが、いつしかそれを忘れた時、爪を噛む癖は再開され、ギザギザな凶器となった爪で〈わたし〉は問題を起こす。またもや一時的な処置として、爪をヤスリで削るが、爪は鋭さを獲得し、さらに危険な物になったことに〈あなた〉は気付かない。依然として〈わたし〉を見ようとしない〈あなた〉は、〈わたし〉の爪によって、利己的なその目は攻撃されるだろう。
 この内容と上記のおかしな三つの点を合わせて推理すると〈わたし〉は何者なのか、見えてくる。
 〈あなた〉は三歳児の連れ子である〈わたし〉を見ようとしない。その〈わたし〉には、〈わたし〉を産み落とした者の面影があるはずだ。〈あなた〉にとっては見たくない、考えたくない人物だろう。いや、そもそも〈あなた〉の見ようとするものの対象外なのかもしれない。既に死んだ者など、鈍感で利己的な目が持つ視界には入れないのかもしれない。
 
 その〈あなた〉を憎む今は亡き者が〈わたし〉に取り憑いているとしたならば、今まで書いてきた不審点がおおよそ解明されると思うのだが、どうだろうか。むろん、誰とははっきり書かれていないのだから、他にも解釈や推理のしようはある。本作が持つ怖さもまた、多様な要素の組み合わせからもたらされたものだ。しかし実験的な人称、視点、語りからホラーを生み出せるなんて、と思わず唸ってしまった。

2018 予想+データ 農林水産大臣賞典 第22回スパーキングレディーカップ(Jpn3)(ホクトベガメモリアル)川崎競馬

 気が向いたので、07/05(木)川崎競馬場ダート1600mで行われる牝馬限定の交流重賞スパーキングレディーカップを予想してみた。
 川崎競馬場のコースの特徴といえば、めちゃくちゃキツイ急カーブ。1600mだと、コーナーに入るまでに400m距離があるので多少緩和されるものの、やはり内枠、インコースを走れた馬が有利となる。
 まあ、普段から南関競馬をやっているわけではないので、コース傾向などなど、私の知識も微妙だから置いといて。JRAと地方の交流重賞はえてしてJRA勢が圧倒してしまう。それはスパーキングレディーカップでも同じなのだが、意外と馬券圏内(3着以内)に地方所属馬が絡んできているのだ。 

 

 というわけで過去10年過去11年(イージーミスをいまさら発見したが母数は多い方が良いと思うのでこのままで)地方所属馬の好走データを調べてみた。


スパーキングレディーカップ 過去10年(過去11年) 馬券圏内に来た地方所属馬のデータ

2017 2着ララベル マリーンC(Jpn3)2着
2016 2着ブルーチッパー マリーンC(Jpn3)2着、クイーン賞(Jpn3)3着
2015 JRA勢独占
2014 3着マイネエレーナ(特に実績なし)
2013 JRA勢独占
2012 2着クラーベセクレタ マリーンC(Jpn3)2着、クイーン賞(Jpn3)1着
2011 JRA勢独占
2010 JRA勢独占
2009 JRA勢独占
2008 1着トーセンジョウオー マリーンC(Jpn3)1着、エンプレス杯(Jpn2)1着
2007 2着レイナワルツ エンプレス杯(G2)3着、白山大賞典(G3)3着 
2007 3着クリムゾンルージュ マリーンC(Jpn3)2着、TCK女王杯(Jpn3)3着 


 

 1,2,3着をJRA勢が独占した年は、2015、2013、2011、2010、2009。他の年は必ず1頭は地方所属馬が馬券に絡んでいる。共通項として浮かび上がってくるのは、他の交流重賞で馬券圏内に入った実績である。2014年の3着マイネエレーナはどう調べても好走要因がわからないので100%のデータにはならなかったけども、合計7頭のうち1頭なので例外ということで。

 

 今年出走する地方所属馬で、過去に交流重賞で好走した経験を持つ馬。
 1番ブランシェクール(2018 TCK女王盃2着)
 7番ラインハート(2018 TCK女王盃3着、2017 クイーン賞3着 JBCレディクラシック3着)
 上の2頭をヒモで抑えておくと、交流重賞にしては良い配当の馬券を当てられるかもしれない。

 

 予想
◎8ワンミリオンス
 昨年のエンプレス杯を勝って以降、5着前後が続いているが今年のJRA勢はどの馬も順調とは言えない、いわば本命不在のレース。とすれば、近2走で栗東S(OP)6着やアハルテケS(OP)5着のこの馬が軸向きに思える。牝馬であることを思えば、中央のオープン特別で6着、5着は買える成績と言えるはずだ。

 

◯3リエンテソーロ
 2016年の全日本2歳優駿(同舞台の川崎マイル)勝ち馬。芝のNHKマイルCでも2着したけども、以降は不振。2017年にユニコーンS(東京ダート)、テレ玉オーバルスプリント(浦和)と、ダートに戻しても走っていないので早熟馬で、もう枯れた可能性があるが、かつて強い勝ち方をした川崎ならば復活もあると見て対抗に。
▲12オウケンビリーヴ
 JRA勢で馬柱が一番キレイなのはこの馬。鞍上ルメールである点も好材料。1200しか使っていないが、交流重賞ならば400m延長でも何とかなりそう。というのも、ダートに転向してから着外は9戦中、3回しかない。
☆ラビットラン
 ローズS1着、秋華賞4着なので芝馬なのだろうが、デビュー当初はダートを使っていた。新馬戦で1着、500万下で2着の成績。ダートが苦手というわけではないだろう。大きく崩れたというか、二桁着順は前走のヴィクトリアマイルだけでなので、そこまで不振というほどではない。交流重賞ならやれてよいのでは。

 

△1ブランシェクール
 上のデータで示した通り。おさえる。
△7ラインハート
 同上。

 

買い目はオッズが出てからにしたいけど3連複の1頭軸で流して10点を、金額調整する感じで。
グッドラック!!

2018 『九年前の祈り』 小野正嗣 (講談社文庫) 感想

 2014年度下半期芥川賞受賞の表題作を起点とした連作短篇集。
 小野正嗣はデビュー作から、故郷である大分県の、リアス式海岸にある過疎化が進む集落を小説の舞台にしてきた。デビュー作や三島賞受賞作では集落を〈浦〉と名付けていたので、ときおりそれらの作品群は〈浦〉サーガとも呼ばれる。本書もそのサーガの一つとして加わるのだろうが、連作短篇集全体としての完成度が相当に高く、そして何より芥川賞を射止めた『九年前の祈り』だけでも絶品と言えるだけに、サーガ等々はあまり気にしなくてもよいかもしれない。
 優れた小説はしばしば読み手の心を強く揺らすもので、恐らくその状態は感動という一語をあてるのが適当なのだろうが、これもまたしばしば起こることで、何にどう感動したのか、言い表し難い。伝えたいことは何となく分かるし、現に伝わってきたから感動しているのだが、言語化しにくい情感を持たされた小説だった。
 
 表題作で短篇というより中篇と言ってよい文量である『九年前の祈り』の主人公さなえは、上に記した大分県の海辺の集落から上京し、カナダ人と結婚し一男を儲けるものの、破局し、いわば都落ちする形で故郷の実家に身を寄せている。そして母からみっちゃん姉というさなえが慕っていた年上の女性の息子が大病に罹り、病院に入院した、との報せを聞く場面から始まる。
 この時より現在と、九年前に集落の住人達でツアー旅行したカナダのモントリオールでの回想とが、複雑な交わり方をしながら小説は進んでいく。
 さなえは両親も含めた集落の住民達に馴染めないどころか心を許していない。狭い地域で固定化され、人の出入りが少ない田舎では、プライベートはないに等しく、何もかもいつの間にか筒抜けだ。特に一度、この集落を捨てて出て行った人間であるさなえには、不寛容な言動が容赦なく浴びせられる。田舎特有の息苦しさ、無神経な住人達がリアルに描かれている。
 加えて息子である希敏(読みはケビン)は、恐らくは自閉症か何か、先天的な障害を負っており、よく発作を起こす。外界の全てを拒絶するような異様な喚き方で、それをさなえは、ひきちぎられたミミズ、という嫌悪感を喚起させる比喩で言い表すように、希敏を重荷に感じている。
 この二つの要因によってさなえが追い詰められていく心理描写は読んでいて苦しくなるほどだ。
 一方で九年前の回想にあたる部分では、案外ユーモラスな様子で進行していく。無神経な住人達も、いざ集落を離れてみれば図々しいだけの、滑稽な田舎者に過ぎない。その中で唯一、思いやりと寛容さを持っているみっちゃん姉にさなえが惹かれていくのは当然のことだが、ふと住人の一人から、みっちゃん姉の息子がどうも発達障害のような子供で苦労しているのだ、と明かされる。無神経で、何でも噂にして集落中の人々に流してしまう特性という伏線がここで活きてくる。この軽口がなければこの小説は成立しない。つまり、みっちゃん姉は現在のさなえと似た状況にあった。急速にさなえと九年前のみっちゃん姉が重なり合い出す。
 現在と九年前が、行空けなどをなされずに進んで次第に混淆していき、精神が参っているさなえに幻覚を与える。それは、息子の入院先にいるはずの、子煩悩であるはずのみっちゃん姉が、なぜか目の前におり、希敏を連れ去っていってくれるというもの。ここに来て、さなえはみっちゃん姉にほぼ同化していると言ってよい。そして、この情景はあまりにも切ない。子を捨ててしまいたいという、決して肯定できるものではないが切実である苦々しい願望が、幻想的で美しく表現されればされるほど、どうしようもない哀しみが満ちてくる。
 九年前のモントリオールの回想で、団体で地下鉄を利用する際、住人の幾人かがはぐれてしまうのだが、住人を探すうちにとある教会に辿り着き、みっちゃん姉は膝を折り、〈祈り〉の姿勢をとる。何を祈るのか、と戸惑う住人達は、はぐれた住人が見つかるよう祈ればよいとみっちゃん姉に倣って〈祈り〉を捧げる。しかしみっちゃん姉の〈祈り〉の姿だけ明らかに質が違っていた。その光景をさなえはついに鮮明に思い出す。
 このみっちゃん姉の九年前の〈祈り〉をどう捉えるか、どう受け取れるかで本作の評価がだいぶ変わってくるのではないか。
 もちろん宗教性は関係ないし、はぐれた住人など、この際どうでもよい。
 〈祈り〉を、何かを請い願うものだと見たとして、果たしてみっちゃん姉の願いは叶うのだろうか。そう、初めから分かっていることだが、たとえ懸命に〈祈り〉を捧げたからといって、必ず救いが訪れるとは限らない。願いの成就など保証しようがないし、見返りだって期待できない。何も起こらない可能性が極めて高い。それらを分かっていてもなお、みっちゃん姉は〈祈り〉を捧げているのだ。これは子を想う母の愛とするのが妥当だろうが、それだけでもない気がして、どうもピッタリと対応する言葉が見当たらない。それでも、いや、だからこそ、目を閉じ、手を組み、何事かを、誰かを、ただ一心に想うということ――〈祈り〉という行為とその姿が持つ崇高さそのものを、心がボロボロになっているさなえが九年越しに見出して、きっと希敏への接し方がよい方へ変わっていくのであろうと思えた結末に、いたく心を揺さぶられてしまった。
 
 他に短篇三つ、『ウミガメの夜』、『お見舞い』、『悪の花』を収録。幾人かの登場人物の事情や過去や背景、意外な繋がりがそれぞれ違った視点から多角的に何度も描かれることで、『九年前の祈り』で提示された世界観に奥行きが出てくる。三人称でありながら(何もかも知っている語り手のくせに)、意図的な省略やはぐらかしを多用する点は少々あざとい気がしないではないが、『悪の花』の最後も〈祈り〉が出てくるので、円環構造のような感じで、まとまりがよく、こういった辺りは技巧面が優れており、締め方としてはキレイで納得のいく物だった。

2018 予想 第20回東京ジャンプステークス(J・GIII)

 荒れる障害重賞、東京ジャンプステークスを予想する。何で荒れるかというと、障害レースは基本的には先行馬圧倒的有利なのだけど、東京障害コースだとそうはいかないから。
 ハードル障害が一つあるものの、直線は463mある。差しがバシバシ届くのだ。
 そして、今年の出走馬は逃げ馬が多い。先頭集団にとりついていくような馬より、やや控える馬、差し馬を貪欲に狙っていきたい。

 

◎6ジャズファンク
 今春に障害入りしてから2戦して1勝2着1回の連対率100%で、前走も昇級初戦であることを全く苦にしない走り。
 その前走だが、4番手前後で競馬を進め、直線に入って追い上げるも惜しくも2着。ほぼ勝ちに等しい内容だったし、何よりその前走は東京障害コースだった。3,4番手に控えてくれる脚質もよい。特に今回は逃げ馬が多くペースが流れると思うので、道中じっくり構えられるこの馬が有利ではないか。
 むろん、他にも控える脚質の馬はいるのだが、障害入りしてまだ底を見せていない点に魅力を感じる。

 

◯9シンキングダンサー
 軸にしようか大変迷った馬。前走の中山グランドジャンプの危なっかしい飛越を見ているとちょっと不安になってしまった。とはいえ、昨年の東京ジャンプステークス覇者で、オープン特別の秋陽ジャンプS(東京3110m)も勝っており、東京障害コースでは2勝とこの舞台との相性は抜群で、中団に構える脚質も非常に良い。
 飛越にミスがなければ、勝ちきっても不思議ではない。
▲8アスターサムソン
 前走の京都ハイジャンプでは本命にしてお世話になったけど、その前走は前に行く馬がほとんどいない、という状況があった。今回では様相ががらりと変わっている。よって引き続き本命、とはできないのだけど、しかし思った以上に強い勝ち方をしたので単穴評価で。粘り込みの3着以内、十分に有り得るだろう。

 

△1マイネルフェスタ
 障害重賞ウィナーでかつ、前年の当レース4着。戦績を見ると、どうも東京障害コースを得意にしているとは見えないのだが、脚質的にはこちらの狙いと合っているのでおさえる。
△3サーストンコンラルド
 前走の昇級初戦は5着に終わったものの、2走前の障害未勝利戦の勝ち方がすごい。7番手からまくって大差勝ち。実績面で見劣りするが、侮れない。
△4ミュートエアー
 3走前に春麗ジャンプS(東京3100m)で3着がある。近2走も番手競馬なのであって、どうしてもハナにという馬ではない。道中、無理して位置をとるのではなく、それこそ3走前のようにじっくり構えてくれれば。
△11タマモプラネット
 実績馬。東京ハイジャンプ3着がある。安定感があり、相手なりに走る馬だし、先行勢ではアスターサムソンと互角か、それ以上の能力は持っているだろう。そのアスターサムソンと同じく、逃げ残りを警戒して、おさえ。

 

 さて、買い目だけど、普段の障害重賞ならフォーメーションを組んででも、少数点におさえてきたけど、このレースの場合、荒れるので、広めに網を放りたい。

 

買い目 3連複軸1頭流し 
6―1,3,4,8,9,11 15点

グッドラック!!

2018 『極楽とんぼ 他一篇』里見弴(岩波文庫) 感想

 長篇『極楽とんぼ』(初出「中央公論昭和36年1月号)、他に短篇『かね』(初出「改造」昭和12年1月号)を収録する。
 里見弴――、寡聞にして実兄に有島武郎、生馬を持ち、白樺派に属す、といった程度の知識しかなく、そのせいかどうか、なかなか手が伸びない作家だった。本書収録の二篇を読み終えて、なぜもっと早く読まなかったかと悔やんでいる。とても面白い小説だったからだ。
 ことに文体がとても良くて、読点で息継ぎしながら長く長く伸びていく文章は軽妙洒脱。饒舌体との一言では説明が不十分、「小説家の小さん」(柳家小さんの名から)との異名があったそうだが言い得て妙で、軽やかで流れるような粋な文章を読んでいると何だか寄席に来たような気持ちになる。目で文字を追っているのに、いつの間にか耳で落語を聞いているような感覚になって、あっという間に惹き込まれてしまった。
 
 表題作『極楽とんぼ』は富裕で子沢山な吉井家の七人兄弟のうち、三男坊として明治18年に生まれた周三郎という道楽者の人生を先に述べた独特な文体で綴っていく。
 題名の通り、のほほんとしたお調子者で、怠け癖がひどく、学校嫌いで頭も鈍く、進級試験に落第、原級留置を何度も食らうくだりは思わず苦笑するとともに、劣等生として嫌な思いもして苦労している様も見受けられる。屈辱もあった様子。
 一方で性の目覚めは早く、次第に女遊びに手を出し、身を立てるなどできない甘ちゃんだから金を無心しいしい、遊び放題。けれども惚れ込んだ女ができればきっちり愛して、割合、一本気めいたところもあって軽薄とは言い切れず、憎めないとはまさにこのこと。
 飄々と、場当たり的な適当さで呑気に空中に浮かぶトンボのように、のらりくらりと過ごしていくが、年を食えば避けられない死別など、楽しいばかりでなく哀しい出来事があるのが世の常というもの。父の死や妻の自殺、阿片中毒になった遊び仲間の発狂などには大泣きするし、関東大震災や戦争など、時代は暗くなってゆき、剽軽さを発揮する場も少なくなって、悲哀の色が濃くなり、さすがの周三郎も何度かどん底に落ち込む。
 それでも持ち前の明るさといい加減さを取り戻し、何度でも立ち上がる姿には胸に来るものがあった。良いこともあれば悪いこともあるし、笑いあれば涙もある。人間の一生を過不足なく描き切っている傑作と思う。
 
 併録作『かね』は犯罪奇譚と言ってしまえばそうかもしれないが、やはり一言では言い表し難い佳品となっている。
 主人公の他吉は勉学が一切できず、早々に丁稚に出されるが、どこに出しても仕事が覚えられずに時には実家に返されてしまう哀れな男だ。おまけに吃音もあって、馬鹿にされ、いつしか自ら口をつぐみ、孤独でみじめな日々を送る内に、ずいぶんと時間が経って五十の坂を越してもなお、雑用程度しかこなせない下使のまま、誰とも仲良くなれぬまま、敗残者として年を食っていく。死に病となった父の介抱をしている時に、父が言い放った言葉が他吉の一生を大きく変える。 
「一生の間に、何かひと仕事し残さなくては駄目だ。ああ、俺も、あれだけのことをしたんだからと思えば、ほんとに、にっこり笑って死ねる。残念ながら、俺にはそれがないのだ。(…)ひとつ、ひとが吃驚するような大仕事を仕出かしてみろ。(…)一生何一つ仕出かさずに死ぬということが、あんまりいい気持のものではない、ということだけ話して聞かせて置きたかったのだ。」(pp.194-195)
 最初は下使として勤めていた銀行の上役からこのくらいならできるだろう、と多額の現金を別銀行に届ける役目を任されて、運んでいる際、やるなら今だ、と一大決心をし、現金を持ち逃げする。これがうまくいったことを機に、大金持ち逃げを何度も繰り返す。しかし、逃走先として朝鮮や満州にまで行きながら、持ち逃げを繰り返してとんでもない額になっていた金に一切手を付けなかった。他吉の往生の際には、楽そうな、と形容される。
 つまり、金額ではないのだ。そしてまた豪遊することでもない。大金を盗むという大胆な犯罪=ひとが吃驚するような大仕事、それが出来損ないの人間である他吉の人生を面白おかしいものに変えたわけだ。こうやって書いてしまうと平凡な筋のように思われそうだけども、冒頭に書いたように、独特な語りの文体でユーモアたっぷりに、魅力的に描かれている。
 
 表題作は戦後に書かれたもので、併録作は戦時中のものだが両作とも、馬鹿というか頭が悪い、愚鈍で、無能で、ダメな男の数奇な一生を書いている点が共通している。題材の選び方が面白い。そして、これが重要だと思うのだが、シリアスというか、深刻ぶった箇所はかなり少ない。にやにや笑えてしまう部分は多数ある。機知に富んでいて、軽やかな文体で書かれた二篇の読後感には、爽やかさすらあった。
 なにも暗く重苦しく鬱屈した調子でなくとも、人間を描けていれば立派に文学になると、当たり前のことを里見弴から証明されたような心持ちになった。『極楽とんぼ』も『かね』も笑いながら読める人生賛歌の小説だろう。生きるのは最高だ、ということだ。
 

2018 予想 第23回ユニコーンステークス(GIII)

 府中ダート1600m、3歳限定のユニコーンSを予想する。
 雨がどれほど降るのか、そして馬場が渋って傾向がどうなるのかがわからないのだけど、先週も差しが決まらないことはなかったし、水が浮くような不良馬場まではいかないだろうから、まあ、普通に予想しようかな、と。
 それなりに逃げ馬がいるので少なくともスローペースにはならないはずだ。狙い目は好位や中団、あるいはやや後方の馬だと思っている。ということで脚質逃げ、あるいは前走や前々走を2番手以内で進めていたような馬は軽視。

 

◎14ルヴァンスレーヴ
 ダートのデムーロって、ちょっと不安になるのだけど、馬が強いし、3着以内は外さないだろうと判断。府中ダートマイルはプラタナス賞で経験済みで且つ圧勝しているし、なんと言っても全日本2歳優駿を勝った唯一のGI馬だし。
 脚質的にも多少の自在性がある。先頭集団の後ろ、または後方からでもいける。操縦性の良さもこの馬の魅力の一つだろう。前走こそ2着で連勝は途絶えたが、年明け初戦の叩きとしては優秀な結果。実績を素直に評価して軸。

 

△2タイセイアベニール
 不人気? なのかな。前々走まで芝で走っていて、距離も1200mが主だったから短距離馬と思われて嫌われているのか。前走、初ダートだった端午Sでは上がり3ハロン2位の末脚で2着なのだし、ヒモに入れておくと面白そう。
△3プロスパラスデイズ
 前走は500万条件とはいえ、同舞台で3馬身半つけた圧勝劇だった。強いでしょ、この馬。いや、強いって、マジで。穴馬として結構、期待している。
△5グレートタイム
 面倒くさくてちゃんと印をつけていないが、つけるとすればこの馬が対抗。(2-3-0-1)という戦績で連対率は83%と、非常に安定感ある馬。唯一馬券外だったのが同舞台のヒヤシンスSなのだけど4着なら悲観するほどではない。展開も味方しそうだ。
△7グリム
 ここと同舞台の青竜S組はユニコーンSと相性が良いから入れた。ただハナ争いするくらい前に行ってしまうと直線迎えてお釣りがないと思うので、青竜Sの時のように4番手前後に控えてくれれば。
△8ハーベストムーン
 逃げ馬で入れるとしたらこの馬しかいない。あとはいらんでしょう。5戦して着外が一度もないのだから、おさえておかないと怖い。
△10バイラ
 端午Sを強い内容で差し切り勝ち。有力馬の一頭だ。外せない。

 

買い目 3連複軸1頭流し
14―2,3,5,7,8,10 15点

グッドラック!!